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神戸地方裁判所竜野支部 事件番号不詳 判決

主文

被告等は連帯して原告に対し、金拾五万円および昭和三十五年二月二十日以降支払が済むまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は之を二分しその一を原告の、その余を被告等の連帯負担とする。

この判決は原告において金参万円の担保を供するときは第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告等は連帯して原告に対し金三十万円、被告恵次は原告に対し金三万五千円を、何れも本件訴状送達の翌日以降支払済まで年五分の割合による金員を附加して支払え。訴訟費用は被告等の負担とするとの判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として、

一、原告と被告恵次は昭和三十三年九月十三日訴外植田カズエ、岡田キタエの媒酌で挙式の上事実上の婚姻をし、昭和三十四年一月頃妊娠、同年九月二十五日宍粟郡山崎町博愛病院において和美を分娩した。

二、昭和三十四年二月頃右懐妊の結果極度に激しき悪阻のため食欲は皆無、脚部神経病を病い、立居困難のため、就寝する外何も出来ぬ状態に立至つた。それ迄は被告等も非常によい嫁を貰つたと他人へも自慢する程であつたが右の如く原告が仕事も出来なくなるに及んで被告宇八郎夫婦の態度が一変し、原告に対して「懶け者」「盗人」と悪口雑言を吐き、「つわり」等は懶け者の言う事じや、起きて仕事をせよと迫り、お前のような者は家風に合わぬなど口やかましく、とうてい被告方に居ることもできず、被告恵次の許を得て原告の里方に帰り休養することになつた。同年三月十一日里方である野尻部落に帰つて来たが里方家屋は家族全部が九州に出稼中で唯一人居なかつたため、原告一人住いで、元来貧困の家庭のことでもあり近隣より米一升宛借用するような状態であつた。

三、その後少しづつ身体も回復し、原告は媒酌人を通じて被告方に帰り度旨申入れたが、被告等は既に離婚を決意し、家に入ることを拒み媒酌人岡田キタエの斡旋をも聞き入れず、やむなく里方に別居する外なかつた。

四、被告恵次は頭初原告との離婚の意思なく、若し被告宇八郎夫婦が結婚の継続を許さぬことがあるとも、二人家出し、父母と別居してでも離婚することはないと云い、且つ折々原告を訪問していたが、頑固極まる被告宇八郎夫婦が被告恵次に対し離婚を強要し、被告恵次も之に屈し、止むなく離婚の決意をした。

五、以上のとおり被告恵次は被告宇八郎等に屈したりとは云え、婚姻を破棄したことにより、被告宇八郎は被告恵次に強要したことにより、原告等の婚姻を不可能にした不法行為により原告の権利を侵害したのであるから何れも共同してその賠償を為すべきである。

六、その賠償額は、原告は右のように理不尽な不法行為によつて名誉、信用を傷付けられ終生回復することのできない精神上の苦痛を蒙つた。尚和美を養育しているのであるが、そのために再婚することも、他に働き収入を得ることも甚だ困難な状況である。

被告宇八郎は田畑五反歩余、山林約八反歩、宅地建物その他合計三百四十万円位の財産を有している。

以上の次第であるからその慰籍料の額は三十万円が相当である。

七、尚原告は和美を出産するに際し、被告等よりは一銭の支払もして貰つていないし一回の見舞も受けていない。入院費、子供の衣類等諸入費は合計七万余円であつた。これは原告の実父より借り受けたものであるがその半額三万五千円は父である被告恵次が分担すべきものである。

よつて原告は被告等連帯に対し金三十万円を、被告恵次に対し三万五千円およびそれぞれ訴状送達の翌日以降支払済まで年五分の割合による金員の支払を求めるため本訴に及んだと述べた。(立証省略)

被告等訴訟代理人は、原告の請求は之を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

一、原告主張事実中一の点は認める。その余の点は否認する。

二、原告と被告恵次とは双方協議の上、婚約を解除したものであつて、被告等の責任において解消したものではない。

三、原告は婚約同棲を始めてから間もなく、当時里方の家族が住つていた九州へ行き、帰宅した後も婚家を外にして家族不在の里方の留守宅に帰つて独居し、しばしば之を繰り返し、被告恵次が迎えに行つても帰宅せず数々の手数を掛け、我ままの仕ほうだいで懶惰の限りを尽し、逐に昭和三十四年三月原告の現住所である空家に帰り女一人独居して、迎えに行くも帰らず、遂に双方何時ともなく事実上婚約を解消した。このように本件婚姻が解消するに至つたのは全く原告の責任による。

四、仮に被告恵次に婚姻予約不履行の責任があるとしても原告の名誉等人格権を侵害したことはない。仮に侵害が存するとしても、その損害額は争う。

被告宇八郎は原告と被告恵次間の婚姻のことにつき之を妨げた事実はない。仮にあつたとしても被告恵次が自己の意思によつて決すべきことであつて被告宇八郎がその責任を負担すべき筋合ではない。

五、原告は和美を養育することによつて働くことも、再婚することも出来ないと主張しているが、原告は自ら求めてその子を養育しているのである。若し望むならば被告恵次は同女を引取る意思があるから速かに引渡すべきである。

六、原告の主張中その七に対し、子は原告、被告恵次間に出生したものであるところ、その分娩費等は父母何れも之を負担すべきものであるから、原告が之を支出したとしても之を被告恵次に請求すべき筋合ではない。又その支出額は争う。と述べた。(立証省略)

理由

一、原告主張事実中一の点は当事者間に争いはない。

二、証人岡田キタエ、同植田カズエの各証言、原告本人訊問の結果を総合すると、原告は昭和三十四年一月頃から悪阻が極度に重体で寝込んで了い、仕事も出来ぬ状態にあつたところ、被告等は原告が居るから家の中が暗くなつたとか、何も仕事が出来ぬとか、嫁らしくせぬとか云い、果は横着者とか、泥棒と云いがかり、原告がたまり兼ね、野尻の実家に帰つたところ、自分等に恥をかかせたとか称して原告を婚家に入れようとしなかつたことが認められる。特に右各尋問の結果に被告恵次尋問の結果の一部、成立につき争のない甲第二号証、および原告本人尋問の結果、ならびに右甲第二号証と対比してその成立を認められる甲第一号証を総合すれば、原告主張の三、四の事実を認定することができる。証人北垣文雄の証言は何れも被告側からの伝聞であり、被告宇八郎に対する尋問の結果は、その供述態度等よりして、被告恵次に対する尋問の結果の一部は、同被告の性格(ゆうじゆう不断)から推測して全く父宇八郎に対する遠慮から必ずしも真実を吐露するものとは考えられない点よりして、何れも信用することはできない。証人中川一成の証言も右認定を左右することはできない。右のとおり本件婚姻の破綻の原因は、全く生理的現象である原告の悪阻による精神的肉体的変化のことについて之を理解することなく、懶惰であるとか、家風に合わぬなど事を構えて婚家に居づらくし、里方に帰つた原告に対しては恥をかかせたと称して婚家に入るを許さなかつた被告等の言動にあるものと云う外ない。そうだとすれば主動的に原告追出の任に当つたと推察される被告宇八郎と、父の見幕に屈した被告恵次は共に不法行為者として連帯して原告の損害を賠償しなければならない。

三、次に原告の損害額について検討してみると、

事実上の婚姻期間が非常に短いこと、原告も被告恵次も共に本件が二回目の婚姻であつたこと(被告宇八郎の供述)両名共義務教育を終つた程度の学歴であり、共に特別な固有財産はなく、原告恵次の月収は約一万五千円(以上被告恵次の供述)であり、被告宇八郎の財産状態は田畑五反歩、家屋敷、山林一町歩弱で農業収入のみが全収入である(この点被告宇八郎の供述)

ことに、本件婚姻の破綻の次第を考え合せ、原告の将来(原告が和美を養育しているため、働くことも、再婚することも困難であること。(この点は弁論の全趣旨により窺うことができる)をも考慮して、原告の蒙つたいわゆる人格的損害あるいは精神的損害額は金十五万円と判断する。

四、次に原告は和美出産の際の費用等の分担金としてその主張七のとおり要求しているけれども、被告主張六のとおりの理由により、原告主張を正当と認容することはできない。

以上のとおり被告等は連帯して原告に対し、慰藉料として金十五万円および之に対する本件訴状が送達された日の翌日であること記録によつて明かな昭和三十五年二月二十日より支払が完全に済むまで年五分の割合による金員の支払を為すべき義務があるから、原告の本訴請求はこの限度で認容し、その余の請求は何れも失当として之を棄却する。尚訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。(昭和三五年一一月二四日神戸地方裁判所竜野支部)

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